EQ(6)―「感情」がテーマの授業

今また興味をもって読み直している本がある。
『EQ こころの知能指数』(ダニエル・ゴールマン)という本だ。
1996年に日本語訳が出版されたが、現代の日本社会を考える時とても参考になる。

このニュースを見て、子どもの情動教育について書いてあるページを探した。
<きれる子>文科省が検討会を設置 科学的に情動解明へ


本の著者は、サンフランシスコにヌエバ学習センターで行なわれている、
「セルフ・サイエンス」という授業を紹介している。


セルフ・サイエンスの授業テーマは「感情」だ。


1960年代の「情動を教育に利用しよう」という考えと違い、
セルフ・サイエンスの狙いは、
「情動そのもの」を教育しようとするところにある。

これは、人生につまずいて「問題児」の烙印を押された子供に
補習的に情動教育をするのでなく、
「すべての児童に必要な技術・知識として情動教育をしていこう」という試みでもある。


つまり、情動を制御できないのは、
脳が制御のし方を学習していないからだと考えている。

脳は発達しつづけるから
学習によって情動を制御することが可能だと考えている。


しかし、情動の分野で技術を上達させていくことは非常に難しい。


なぜなら、情動の技術を身につけるべき場面では、
たいてい心が動揺していて、新しい行動パターンを学習できるような心理状態にないからだ。

心臓がドキドキして、手のひらが汗ばんで、
からだがブルブル震えそうな状態の時に、

相手の言うことをしっかり聴き、しかも自分自身をコントロールして
叫んだり、相手をなじったり、殻に閉じこもったりしないで
その場を切り抜けることを学ぶ必要がある。


その技術を身につけていない子どもが、
情動の制御ができない状態(=キレル)に陥り易いのは、むしろ当然だと考えられる。


情動を学習する場面では、教師・親・友人などの支援・指導が必要になる。



セルフ・サイエンスの授業では、

  一切の争いを避けることではなく、

  全面的なけんかに発展する前に

  意見や感情の行き違いを解決すること

が大切だと教える。


そのためには、

  一方的に攻撃したり、受身になったりしないで、

  自分の考えをきちんと主張する

という態度が必要で、ここでは小学3年生からそのことを教えている。



著者は、授業の一例として、あるグループワーク(ゲーム)を取り上げ、
それを巡る子ども達の言動を紹介している。


ゲームの判定についてプレイヤーが判定者に意見を言い、
判定者とプレイヤーがそのルールを巡って議論を始めたところ、
会話のテンポが、次第に攻撃的になってきた。


この授業では、このような状況を「いけないこと」と捉えずに、
「熱した感情のやりとりが自然発生的に起こった場面は重要だ」と捉える。

こういう実際の場面でこそ情動学習の成果があらわれ、
新しい学習内容が生徒の頭に染み込んでいくと考えている。


教師は、傍に近づき、
判定者には、「彼はあなたを非難しているわけではない」と言い、
プレイヤーには、「もう少し非難がましくない言い方であなたの考えを言ってごらんなさい」
とアドバイスする。

そして教師はやりとりを続けさせる間、
口調・ジェスチャー・視線などからも、
プレイヤーの怒りの原因が本当はどこにあるのか探る。


プレイヤーの視線が判定者の評価表にいきがちなのを見つけ、
教師は、判定者に、プレイヤーはその評価で書かれた言葉を気にしているようだと伝える。
そして、判定者に、その言葉はどういう意味で使ったのか尋ねる。

判定者がその言葉を使った理由を説明し、悪い意味で使ったのではないと、
プレイヤーに理解を求める。

そして教師は、判定者がその言葉を使って評価した状況について、
当時のプレイヤーの意図と、判定者にはその意図がわからなかったことを
説明する。

生徒たちは、互いに、相手に自分の気持を聞いてもらい、
また、理解してもらえたので、穏やかな気分になる。


これは、

「意思の疎通を欠き、勝手な推量をし、結論に飛びつき、
相手が耳を傾ける気をなくすようなきついメッセージを送りつける」ことから争いが始まる

ことを、実際の場面でも学習できたことになる。


情動の学習が困難な状況において、
殴り合いもなかったし、どちらかが席を立って一方的に放棄してしまうこともなかった。

これまでのセルフ・サイエンスの授業のおかげで、
彼らは、小学5年生にして、
感情的に相手のことを怒鳴ったりののしったりしないで、意見を主張し合えた。

大喧嘩になったかもしれない場面を、紛争解決の実習場面に転換できたといえる。

小学5年生くらいの男の子の世界では、
もっとつまらないことで、殴り合いやもっと深刻な事態になることも珍しくない。



<キレる子ども>の解明も良いけれど、このような授業を子どもにしてほしい。


情動のコントロール技術を身につけないまま大人になってしまうと、
やはり情動の制御ができない大人になってしまうから。
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by swanote | 2005-01-11 23:59 | 反応
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